考現学の方法の特徴は、徹底した客観的観察にある。それもすべての実地において、実情をみる、というところにある。社会の現実がどうなっているかを、忠実に観察し、記録するのである。考古学者が古墳の発掘において、すべての出土品を綿密にていねいに調べるように、考現学者は、ひとつの部屋にあるものを、細大もらさず、綿密にていねいに調べあげるのである。
あるいはまた、動物の行動や習性を観察するように、考現学者は現代人の行動と習性を観察するのである。生物学者が一定区域のなかに、どのような生物がどれだけ生存しているかしらべあげるように、考現学者は、現代社会の一定区域のなかに、どのような社会現象がどれほど生起しているかを、徹底的に調べ上げるのである。
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そしておもしろいのは、昆虫学者が野外において昆虫を採集し、植物学者が植物を採集するように、考現学者は街頭において風俗を「採集」するのである。採集の用具として、捕虫網や胴乱のかわりに、考現学者はノートと鉛筆を持ち、ストップウォッチやカウンター、巻尺、望遠鏡をもつのである。そこにしめされているのは、徹底した野外科学者(フィールド・サイエンティスト)の姿勢である。その意味では、考現学というのは、現代の社会をフィールドにした、社会博物学であるといってもよいのだろうか。